発注側になったら:取適法(旧・下請法)の適用判定
1. 下請法は「取適法」になった
2026年1月1日から、下請代金支払遅延等防止法は、中小受託取引適正化法(通称:取適法)となりました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
名称の変更にとどまらず、適用範囲と禁止行為の双方が拡大しています。用語も改められ、「親事業者」は委託事業者、「下請事業者」は中小受託事業者となり、「下請」という用語自体が条文から姿を消しました。
改正前の前提で運用を続けている場合、現行法に違反するおそれがあります。とりわけ、資本金基準だけを見て「自社は対象外」と判断していた会社は、判定をやり直す必要があります。
2. 適用判定は2段階で行う
取適法が適用されるかは、次の2段階で判定します。
第1段階:取引が対象の類型に当たるか
対象となるのは、次の5類型です。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 製造委託 | 物品の製造・販売等を行う事業者が、規格・仕様を指定して製造を委託する |
| 修理委託 | 物品の修理を請け負う事業者が、その修理を委託する |
| 情報成果物作成委託 | プログラム、映像、デザイン、文字・図形等の作成を委託する |
| 役務提供委託 | 請け負った役務の提供を、他の事業者に委託する |
| 特定運送委託(新設) | 販売・製造等の目的物を取引先に引き渡すために必要な運送を委託する |
情報成果物作成委託には、ソフトウェア、デザイン、コンテンツの制作委託が含まれ得ます。スタートアップが外部の開発会社やデザイナーに発注する場面は、多くがここに入ります。
特定運送委託は今回の改正で加わった類型で、従来は対象外だった発荷主から運送事業者への一定の委託が対象となりました。
第2段階:当事者の規模が基準に当たるか
従来は資本金の額のみが基準でした。取適法では、資本金基準に該当しない場合でも、従業員数基準に該当すれば適用対象となる仕組みが加わりました。
| 取引の種類 | 従業員数の基準 |
|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラム作成、運送・倉庫保管・情報処理 | 委託事業者300人超/中小受託事業者300人以下 |
| それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 | 委託事業者100人超/中小受託事業者100人以下 |
実務上の意味は大きく、資本金を1000万円のままにして人員を増やしてきた会社は、これまで対象外という前提で運用していたのであれば、今は委託事業者として規律を受けている可能性があります。
公正取引委員会は、資本金・従業員数・委託内容から適用の有無を簡易に確認できる診断ツールを公開しています。まずこれで確認するのが早いでしょう。
3. 委託事業者に課される義務
適用対象となった場合、次の義務が生じます。
- 取引条件の明示(4条):発注に際し、法定事項を記載した書面または電磁的方法による明示を直ちに行う
- 取引記録の作成・保存(7条):取引の内容を書面または電磁的記録で作成し、2年間保存する
- 支払期日を定める義務:給付を受領した日(役務提供委託では役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定める
- 遅延利息の支払(6条):支払期日までに支払わない場合、公正取引委員会規則で定める率による遅延利息を支払う
電子メール、EDI、チャットなどによる明示も、受信者を特定して法定事項を明確に提供できる方法であれば認められます。問題は「発注書」という書式がないこと自体ではなく、必要事項の明示が欠けていることです。もっとも、発注時点で定められないことに正当な理由がある事項については、未定事項以外をまず明示し、未定の理由と内容を定める予定期日も示した上で、その事項が定まった後に直ちに補充して明示する取扱いが認められています。
4. 改正で新しくなった禁止行為
従来からの禁止行為(受領拒否、代金の減額、返品、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当なやり直し、報復措置など)に加えて、今回の改正で次の点が変わりました。
手形による支払の禁止
手形による支払が禁止されました。電子記録債権(でんさい)や一括決済方式による支払であっても、中小受託事業者が支払期日までに代金満額相当の金銭を得ることが困難なものは違反となります。
振込手数料を受注者に負担させることの禁止
「振込手数料は御社負担で」という従来の商慣行は、そのままでは違反となります。この点は、取引基本契約の条項と、経理の実際の振込設定の両方を見直す必要があります。契約書を直しても振込の設定が変わっていなければ意味がありません。
協議に応じない一方的な代金決定の禁止
中小受託事業者から価格について協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じず、または必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に代金を決定する行為が禁止されました。
従来の「買いたたき」は、著しく低い代金の設定が問題とされるものでした。今回加わったのは、価格決定のプロセスそのものを規律するものです。価格を据え置くという結論が直ちに違法になるわけではありませんが、協議の求めに実質的に応じず一方的に決定する運用は避けなければなりません。
実務としては、価格やコストの変動を踏まえて取引条件を見直す機会を設け、協議の申入れに対してどのような検討・回答をしたかを記録しておくことになります。
執行面の強化
違反行為を知らせたことを理由とする報復措置の禁止は、公正取引委員会・中小企業庁に加えて事業所管省庁への申告についても及ぶこととされ、各省庁が指導・助言を行えるようになりました。
5. 2027年4月に向けてもう一段の変化がある
さらに、独占禁止法2条9項6号に基づく新たな特殊指定として「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(支払告示、令和8年公正取引委員会告示第3号)が公布されており、令和9年4月1日から施行されます。
これは、取適法にいう製造委託等をした事業者が、受託事業者に対し、給付受領日から60日を経過してもなお代金を支払わない行為を、正当な理由がある場合などを除き禁止するものです。取適法の資本金・従業員数基準を満たさない取引にも一定の範囲で適用が及び得る点が重要です。もっとも、受託事業者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる場合は対象から除かれます。
あわせて、公正取引委員会と中小企業庁は、令和9年3月末の約束手形の利用廃止を見据え、取適法の対象外取引も含めたサプライチェーン全体での支払サイトの短縮・現金払い化を、各業界団体・金融機関に要請しています。
したがって、取適法の規模基準に当たらない場合でも、支払告示を含む独占禁止法上の規律を別途確認する必要があります。
6. 社内で直すもの
改正への対応は、法務だけで完結しません。次の3か所を同時に見る必要があります。
| 対象 | 確認すること |
|---|---|
| 契約書(取引基本契約・発注書の雛形) | 支払手段の条項(手形の記載が残っていないか)、振込手数料の負担、支払期日、価格改定の協議条項 |
| 発注のフロー | 法定事項の明示が発注時点で揃っているか(未定事項がある場合は補充明示の運用があるか)、口頭だけで作業に着手させていないか、チャット等を使う場合も法定事項が明確に残っているか、取引記録が2年間残る形で保存されているか |
| 経理の運用 | 振込手数料の実際の差引き、支払サイト、手形・電子記録債権の利用状況 |
最初にやるべきは、委託先の一覧を作り、取引類型と当事者の規模で分類することです。判定ができていなければ、契約書を直しても、どこに適用されるのかが分かりません。
本記事は一般的な情報の提供であり、個別の法的助言ではありません。法令・運用基準は改正されることがあるため、実際の判断にあたっては最新の一次資料をご確認ください。取適法の適用判定と社内規程の見直しについては、お問い合わせフォームからご相談ください。関連する行政の指針は、取適法・取引適正化のガイドライン一覧にまとめています。