業務委託が労働者性を問われるとき
1. 契約書の表題は判断材料の一つにすぎない
「業務委託契約書」という表題を付けていても、その関係が労働契約と評価されることがあります。労働者性は契約の名称ではなく、就労の実態によって判断されるためです。
この論点は、平時には表面化しません。問題になるのは、おおむね次の場面です。
- 業務委託先から、契約終了後に未払残業代を請求された
- 労働基準監督署の調査で、委託先が労働者に当たると指摘された
- 年金事務所の調査で、就労実態に照らして社会保険の被保険者資格の遡及確認が問題となった
- 資金調達やM&Aのデューデリジェンスで、委託先の労働者性を指摘され、簿外債務として価格交渉の材料にされた
とりわけ4つ目は、スタートアップの資金調達やM&Aで確認対象になり得ます。創業期に利用してきた業務委託の実態が、デューデリジェンスで改めて検討されることがあります。
2. 判断の枠組み
労働基準法上の労働者に当たるかは、「使用従属性」を中心に判断されます。実務では、昭和60年の労働基準法研究会報告が示した枠組みが、現在も判断の出発点として用いられています。
構造としては、次のようになります。
使用従属性の判断
- 指揮監督下の労働といえるか
- 仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由があるか(断れるか) - 業務の遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか - 勤務場所・勤務時間が拘束されているか - 本人に代わって他の者が業務に従事すること(代替性)が認められているか
- 報酬が労務の対償といえるか
- 報酬が時間を単位として計算されていないか - 欠勤した場合に控除され、残業に相当する割増しがあるか
補強的に考慮される要素
- 事業者性:自ら機械・器具を負担しているか、報酬の額が同種の労働者と比べて著しく高くないか
- 専属性:他社の業務に従事することが制約されていないか、報酬に生活保障的な要素がないか
これらは一つでも該当すれば直ちに労働者、というものではなく、個別事情を総合して判断されます。諾否の自由が乏しい、遂行方法について具体的な指揮監督を受ける、報酬に時間給的な性格があるといった事情は、いずれも労働者性を肯定する方向の要素となり得ますが、特定の三要素だけで結論が決まるわけではありません。
3. 契約書に書いても意味がないこと
実務でよく見かけるのは、次のような条項です。
本契約は請負契約であり、乙は甲の労働者ではない。乙は労働関係法令上の権利を主張しないものとする。
このような条項だけで、労働者性の判断を左右することはできません。労働基準法上の労働者性は、当事者が付した契約名や一方的な確認文言ではなく、契約内容と就労実態から判断されます。契約書で確認すべきなのは「労働者ではない」と宣言することではなく、記載内容と実際の運用が一致しているかです。
そこで、契約書と運用の両方で確認すべき点を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 労働者性を否定する方向の事情 | 労働者性を肯定する方向の事情 |
|---|---|---|
| 業務の特定 | 成果物・期限で特定する | 「当社の指示する業務」と包括的に定める |
| 指示 | 成果物の仕様を伝える | 作業手順・進め方を逐一指示する |
| 時間・場所 | 受託者が決める | 始業終業時刻を定め、出社を求める |
| 報酬 | 成果・案件単位 | 時給・日給、稼働時間の管理 |
| 兼業 | 制限しない | 他社業務を禁止する |
| 設備 | 機械・器具や主要な費用を受託者が負担する | 機械・器具や主要な費用を発注者が広く負担する |
| 組織 | 指揮命令系統に組み込まない | 朝会に出席させ、社内の役職を与える |
もっとも、事業の性質上、時間や場所の指定が合理的に必要な業務もあります。その指定だけで直ちに労働者性が肯定されるわけではありませんが、他の事情と合わせて評価されます。使用従属性が強い場合には、雇用への切替えを含めて契約関係を見直すことになります。
4. フリーランス法が重ねて適用される
労働者性の議論とは別に、2024年11月1日から、フリーランス・事業者間取引適正化等法(正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、令和5年法律第25号)が施行されています。同法の「特定受託事業者」は、個人であれば従業員を使用しない者、法人であれば一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しない者です。発注者側の義務は、発注者の属性と業務委託の期間によって異なります。
- 取引条件の明示:業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をしたとき、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、書面または電磁的方法で直ちに明示する
- 期日における報酬の支払:従業員を使用する個人や、二以上の役員がいるか従業員を使用する法人などの「特定業務委託事業者」は、原則として、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに支払う
- 禁止行為:特定業務委託事業者が1か月以上の業務委託をする場合、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止される
- 就業環境の整備:特定業務委託事業者には、募集情報の的確な表示やハラスメント対策等が求められる。6か月以上の業務委託では、育児介護等との両立への配慮や、中途解除・不更新の原則30日前予告等の義務も生じる
義務の対象範囲は、業務委託の期間や発注者が従業員を使用しているかによって変わる仕組みになっています。自社のすべての業務委託に同じ義務がかかるわけではないので、契約類型ごとに整理しておく必要があります。取引の適正化に係る規定は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定は厚生労働省が執行を担当します。
公正取引委員会は、既に複数の事業者に対して勧告を行い、その内容を公表しています。事業者名も公表されるため、レピュテーション上の影響も考慮が必要です。
5. 取適法との関係
さらに、取引類型と当事者の資本金・従業員数の関係が取適法の要件に当たる場合には、取適法(旧・下請法)も問題となります。中小受託事業者には個人も含まれ得ます。2026年1月1日からは、従来の資本金基準に加えて従業員数基準が導入され、適用範囲が広がっています。詳細は取適法の適用判定についての記事で整理しました。
実務上は、委託先ごとに次の論点を順に確認すると見通しがよいでしょう。フリーランス法と取適法は排他的ではなく、要件を満たせば重ねて適用されます。
- その相手は労働者と評価されないか(労働基準法・労働契約法)
- 労働者でないとして、フリーランス法の対象か(従業員を使用しない個人等か)
- 取適法の対象にもなるか(取引類型と当事者の規模。フリーランス法と重複し得る)
- さらに、独占禁止法の優越的地位の濫用等の問題はないか
6. 最初にやること
すべてを一度に整えるのは現実的ではありません。着手するなら、次の順序をお勧めします。
- 業務委託先の一覧を作る(契約期間、報酬の決め方、稼働場所、兼業の有無)
- 一覧のうち、時給・日給で報酬を払っている先と、毎日出社している先に印を付ける
- 印の付いた先について、雇用への切替えか、運用の是正かを判断する
- 並行して、契約書の雛形と発注時の明示事項を、フリーランス法の要求に合わせて直す
2の二つは自社で把握しやすく、労働者性を検討する際の一次的なスクリーニング項目にはなります。ただし、いずれも単独で結論を決めるものではないため、印の付いた先は他の判断要素も含めて個別に確認します。
本記事は一般的な情報の提供であり、個別の法的助言ではありません。労働者性の判断は、実際の就労実態を踏まえた個別の検討を要します。ご相談はお問い合わせフォームから承ります。関連する行政の指針は、労務・人事のガイドライン一覧にまとめています。