スモールM&AでSPA(株式譲渡契約)が重要な理由|買手が確認すべき8条項
株式譲渡で会社を買収する場合、最終的な取引条件を定める中心的な契約がSPA(Stock Purchase Agreement/株式譲渡契約)です。
スモールM&Aでは、当事者同士やM&A仲介会社を通じて話が早く進み、「価格と引渡日さえ決めれば契約書はひな形でよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、買手にとってSPAは、単に株式を何円で買うかを決める書類ではありません。DDで把握したリスクを誰が負担するのか、クロージングまでに何を実現するのか、売主の説明が誤っていた場合にどうするのかを定める、買収後のリスク分担表でもあります。
中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、最終契約の主要項目として、譲渡対象、対価、支払方法、経営者・役職員の処遇、表明保証、クロージングの前提条件、競業避止、解除事由などが挙げられています。
DDで問題を見つけても、最終契約に何も反映しなければ、買収後のリスクはそのまま買手側に残ることがあります。SPAは法務DDの出口です。
1 SPAは「株を買う契約」以上のもの
株式譲渡では、対象会社そのものは同じ法人として存続します。そのため、買収前に会社が負っていた契約上の義務や潜在的な問題も、原則として会社の中に残ります。
買手は株式を取得した後、その会社の経済的なリスクを株主として引き受けることになります。だからこそSPAでは、買収前に誰が負担すべきリスクなのかを具体的に分ける必要があります。
2 買手が確認すべき8つの条項
① 譲渡対象となる株式
何株を、誰から取得するのかを明確にします。100%買収を予定しているなら、本当に発行済株式の全てを取得できるのかが重要です。
株式の譲渡制限がある会社では、必要な承認手続も確認します。株主の権利関係に疑義があるなら、クロージング前に解消させることも検討します。
② 譲渡価格と支払方法
価格だけでなく、いつ、どのような条件で支払うかを決めます。
一括払いなのか、分割払いなのか、一定の条件達成後に追加支払をするのか。買収後に価格を調整する仕組みを設けるのか。
支払時期がクロージングより後になる場合は、未払いリスクや条件解釈をめぐる紛争が生じやすくなります。中小企業庁も、譲渡対価の分割払いや後払いをめぐるトラブルを具体例として紹介しています。
③ クロージングの前提条件
契約締結と株式の引渡しが同じ日とは限りません。契約締結後、一定の条件を満たした日にクロージングすることがあります。
例えば、
- 主要取引先から必要な同意を取得する
- 株式譲渡の社内承認を完了する
- 問題となっている契約を是正する
- 必要な許認可上の手続を済ませる
- 売主経営者の個人保証の取扱いについて金融機関と調整する
などです。
買収判断の前提となる重要事項が未解決のままなら、「売主が努力する」だけでなく、解決できなければクロージングしない条件にすることを検討します。
④ クロージングまでの売主の義務
契約締結からクロージングまで時間が空く場合、その間に対象会社の状態が大きく変わらないよう、通常の事業運営を継続することや、重大な契約締結・借入れ・資産処分等について一定の制限を設けることがあります。
買収する会社の状態が、契約締結時とクロージング時で別物になってしまうことを防ぐためです。
⑤ 表明保証
表明保証は、売主等が一定の事実が正しいことを表明し、保証する条項です。
例えば、
- 売主が対象株式を適法に保有している
- 財務諸表について重大な虚偽がない
- 重大な未開示債務がない
- 重要契約に重大な違反がない
- 重大な訴訟・紛争が開示されている
- 税金や労務について一定の問題がない
といった事項が対象になります。
ただし、表明保証は多ければ多いほどよいわけではありません。DD結果、買収価格、売主が把握できる範囲、責任上限・期間等と組み合わせて設計する必要があります。
⑥ 補償
表明保証違反や契約違反があった場合に、どの範囲の損害を誰が負担するのかを定めます。
ここでは、
- 補償の対象
- 請求できる期間
- 責任上限
- 少額請求をどう扱うか
- 特定リスクについて通常の上限と別扱いにするか
などが問題になります。
売主の責任を無期限・無制限にすればよいというものでもなく、案件規模とリスクに応じた設計が必要です。中小企業庁の資料も、DDの結果や譲渡対価への織込みを踏まえて表明保証の内容を検討することを示しています。
⑦ 解除
どのような場合に、クロージング前に契約から離脱できるかを定めます。
重大な表明保証違反、重大な契約違反、前提条件の不充足などが典型的な検討事項です。
「問題が起きたら話し合う」だけでは、買手に契約上の離脱権があるのか不明確になります。
⑧ クロージング後の義務・競業避止等
スモールM&Aでは、売主経営者本人の人脈、ノウハウ、顧客関係が企業価値の大きな部分を占めることがあります。
そのため、一定期間の引継ぎ協力、秘密保持、競業避止、顧客・従業員の勧誘制限などが検討されることがあります。もっとも、競業避止を過度に広く定めれば有効性等が問題となり得るため、必要な範囲を具体的に検討すべきです。
3 ひな形をそのまま使うことの問題
中小企業庁も株式譲渡契約書のサンプルを公開していますが、サンプル自体が、具体的内容は当事者間で調整し、必要に応じて弁護士等へ相談することを想定しています。
ひな形は、条項の存在を知るためには有用です。しかし、
- 主要顧客の契約継続が買収価値の中心なのか
- 未払残業代リスクが具体的に見つかったのか
- IPの権利帰属に不備があるのか
- 許認可の維持に条件があるのか
によって、必要な条項は変わります。
4 SPAはDDの後に初めて具体化できる
買収前にDDを行う意味の一つは、SPAに何を書くべきかを決めることにあります。
例えば、DDで主力顧客の同意が必要と分かれば、その同意取得をクロージングの前提条件にすることが考えられます。未払残業代リスクが特定されれば、価格調整や特別な補償を検討することがあります。
したがって、DDとSPAを別々の作業として考えないことが重要です。DDで問題が見つかったらどうする?で、反映の方法を具体的に整理しています。
5 まとめ
スモールM&Aでも、SPAは単なる形式書類ではありません。
買手の立場からは、
- 何を買うのか
- いくらで、いつ買うのか
- クロージング前に何を実現してもらうのか
- 売主の説明が誤っていた場合にどうするのか
- DDで見つかった問題を誰が負担するのか
を契約上明確にする必要があります。
数百万円から数千万円のスモールM&Aだからこそ、取引規模に見合ったシンプルな契約にしつつ、買収判断に重要なリスクだけは落とさないことが大切です。
参考資料
個人・スモールM&Aの買手側法務DDについて:買収前のリーガルチェック、法務DD、株式譲渡契約・事業譲渡契約のレビュー等をご相談いただけます。料金とサービス内容はスモールM&Aの法務DDをご覧ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件についての法律意見を提供するものではありません。