NI伊藤憲武
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2026.10.12 法務DD / 表明保証 / 補償条項 / M&A

DDで問題が見つかったらどうする?価格・表明保証・補償・前提条件への反映

法務DDをすると、多くの案件で何らかの問題が見つかります。

契約書が十分に整備されていない、未払残業代の可能性がある、外注したソースコードの権利処理が曖昧、主要取引先との契約に支配権変更条項がある。スモールM&Aでは、こうした不備が一つもない会社の方が珍しいかもしれません。

だからといって、問題が一つ見つかるたびに買収を中止するわけではありません。

DDの役割は、問題を発見して終わることではなく、その問題を取引条件に変換することにあります。

DD → リスク評価 → 価格・前提条件・表明保証・補償等へ反映、という流れまで考えて初めて、DDが買収意思決定に役立ちます。

1 まず「重要度」を分ける

DDで問題が見つかったら、最初に確認したいのは、買収価値にどの程度影響するかです。

例えば、会社の印鑑管理規程が古いことと、売上の50%を占める顧客が買収を理由に契約解除できることでは、重要度が全く違います。

実務上は、

  • 買収を中止する可能性がある重大事項
  • クロージングまでに解消すべき事項
  • 価格に反映すべき事項
  • 契約上の保護で対応できる事項
  • 買収後に改善すれば足りる事項

といった形で分類すると、買手の判断につながりやすくなります。

2 対応方法は一つではない

DDで発見した問題への代表的な対応は次のとおりです。

問題の例主な対応候補考え方
未払残業代リスク価格調整/特別補償/表明保証過去分の潜在債務を誰が負担するか整理
主要顧客の同意が必要クロージングの前提条件同意が取れなければ買収価値が変わる場合
外注成果物の知財帰属が不明クロージング前の是正/前提条件権利譲渡契約等を先に整備
係争中の訴訟価格調整/特別補償対象・上限・期間を個別設計
許認可上の問題前提条件/取引スキーム変更解消できなければクロージングしない
軽微な社内規程不備買収後の改善事項取引実行を止めるほどでなければPMIで対応

3 方法① 買収価格へ反映する

問題が経済的に評価できる場合、価格へ反映する方法があります。

例えば、過去の未払賃金について合理的な範囲で金額を見積もれる場合、そのリスクを踏まえて買収価格を調整することが考えられます。

ただし、価格を下げたからといって、その問題が消えるわけではありません。将来の損失額が読めない場合や、事業継続そのものに影響する場合には、価格調整だけでは不十分です。

4 方法② クロージング前に直してもらう

修正可能な問題なら、売主側にクロージングまでの是正を求める方法があります。

例えば、

  • 外注先から知財の譲渡を受ける
  • 不足している社内承認を取得する
  • 主要取引先の同意を取得する
  • 不要な関連当事者取引を解消する

などです。

買手にとって特に重要な事項は、単なる努力義務ではなく、クロージングの前提条件とすることを検討します。

前提条件が満たされなければ、買手は予定どおりクロージングしないという設計です。

5 方法③ 表明保証で事実関係を確認する

表明保証は、売主等が一定の事実が正しいことを表明・保証するものです。

例えば、

  • 重大な未開示債務がない
  • 重要契約について重大な債務不履行がない
  • 開示済みのものを除き重大な紛争がない
  • 一定の知的財産について対象会社が必要な権利を有する

といった内容です。

ただし、表明保証はDDの代わりではありません。

DDを十分に行わず、広い表明保証を入れれば安全になるとは限りません。違反が発生してから補償請求をするには時間・費用もかかりますし、売主に資力がなければ回収できないこともあります。

中小企業庁も、表明保証についてDDの結果、問題顕在化の可能性・影響、譲渡対価への織込み等を踏まえて当事者が認識をすり合わせることが重要としています。

6 方法④ 補償条項を設ける

表明保証違反や契約違反が発生したときの金銭的処理を定めるのが補償条項です。

買手側では、

  • 何が補償対象か
  • どのような損害まで含むか
  • いつまで請求できるか
  • 責任上限はいくらか
  • 少額の損害をどう扱うか

を確認します。

また、DDで既に具体的に発見されているリスクについては、一般的な表明保証とは別に、特定の問題を対象とした補償を設けることも検討できます。

例えば、既に発生している特定の労務紛争や税務調査、訴訟等です。条項ごとの見方はSPAで買手が確認すべき8条項にまとめています。

7 方法⑤ 取引スキーム自体を変える

DDで重大な簿外債務の可能性が見つかった場合などには、株式譲渡ではなく、取得する事業・資産を選択できる事業譲渡等へスキームを変更することが選択肢になる場合もあります。

もっとも、事業譲渡では契約・資産の個別移転、従業員対応、許認可等の別の問題が生じます。単純に「事業譲渡なら安全」というわけではありません。詳しくは株式譲渡と事業譲渡は何が違う?をご覧ください。

8 買収中止という判断もある

もちろん、契約で処理できない問題もあります。

例えば、

  • 売主が対象株式を適法に保有していることを確認できない
  • 最大顧客との契約継続が見込めず、事業価値の前提が崩れる
  • 必須の許認可を維持できない
  • 開示内容への信頼そのものが損なわれる

といった場合です。

DDは「買うための手続」ではなく、買わない判断をするための手続でもあります。

9 重要なのは「リスクの所在」を契約書に残すこと

口頭では、「その問題は売主が対応します」「大丈夫です」と説明されていても、SPAに反映されていなければ、後から責任範囲を巡って争いになることがあります。

中小企業庁が第3版ガイドラインで最終契約後のトラブルを詳しく扱うようになったことからも、最終契約の実効性が重要であることが分かります。

10 まとめ

DDで問題が見つかること自体は、異常ではありません。

重要なのは、

  1. 問題の重要度を評価する
  2. 解決できるものはクロージング前に解決する
  3. 経済的リスクは価格へ反映する
  4. 残るリスクを表明保証・補償等で配分する
  5. 解決できない重大事項なら買収中止も検討する

という流れです。

法務DDは報告書を作るためではなく、買収価格とSPAの条件を決めるために行うものと考えると、買手にとっての意味が分かりやすくなります。何を確認するかはスモールM&Aで確認すべき10項目で整理しています。

参考資料


個人・スモールM&Aの買手側法務DDについて:買収前のリーガルチェック、法務DD、株式譲渡契約・事業譲渡契約のレビュー等をご相談いただけます。料金とサービス内容はスモールM&Aの法務DDをご覧ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件についての法律意見を提供するものではありません。

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