生成AIプリンシプル・コードを読む(後編)何を開示し、どう備えるか
読み上げの準備をしています。
この回の要点
- 原則1はコーポレートサイトでの概要開示です。モデル、学習データ、クローラ、トレーサビリティが対象(6〜7ページ)。
- 知財保護の措置は9項目。robots.txt の尊重、ログの保持、窓口の整備と記録の保存が含まれます(7ページ)。
- 原則2と3は外部からの開示の求め。窓口と対応方針を先に決めておくことが最大の備えです(9〜13ページ)。
前編のおさらいと今日の要点
伊藤後編です。前編では、自社がこの文書の対象になるのかどうかを見ました。受託開発だけ、社内データだけ、研究開発だけなら原則として対象外。業界特化型は該当し得るが、求められるのは自社が付加した部分に限られる、という話でした。
聞き手今日は、対象になった場合の中身ですね。
伊藤はい。押さえてほしいのは三つです。一つ目、原則1はコーポレートサイトでの概要開示で、対象はモデル、学習データ、クローラ、そしてトレーサビリティです。6ページから7ページ。
伊藤二つ目、知的財産権保護の措置が9項目あります。robots.txt のような機械可読な指示に従うこと、ログの保持、窓口の整備と記録の保存が含まれます。7ページです。
伊藤三つ目、原則2と原則3は、外から開示を求められる場面の話です。窓口と対応方針を先に決めておくことが最大の備えになります。
原則1:何を開示するのか
聞き手では、対象になった場合に何をするか。原則1からお願いします。
伊藤6ページです。コーポレートサイトなどで、概要開示対象事項を開示して、権利者も利用者も含めて誰でも見られる状態にする、というものです。開示できない部分があれば、その理由を示してエクスプレインする、という建て付けです。
伊藤開示する内容は二つに分かれます。一つ目が透明性確保のための措置で、6ページです。使用モデル関係として、名称やバージョン、公開日を含む来歴、アーキテクチャと設計仕様、利用規定、トレーニングプロセスの内容。
伊藤学習データ関係として、学習と検証に用いたデータに関連する事項。ここにはRAG、検索拡張生成で使うデータも含むと明記されています。それから、クローラについて、目的、データ収集期間、名称や識別子、第三者クローラを使っているかどうか。
聞き手7ページには、アカウンタビリティ関係もありますね。
伊藤はい。開発や提供、利用の中で行われた意思決定について、技術的に可能かつ合理的な範囲で追跡・遡及できる状態にしておく。トレーサビリティ、責任者の明示、責任の分配、文書化が挙がっています。
伊藤二つ目が、7ページの知的財産権保護のための措置です。実務では、ここが一番重い。九項目が並んでいます。
伊藤社内に知財保護の原則を作って責任体制を明確にし、年1回以上見直して要旨を公表すること。他者の知的財産権を侵害しないこと。ペイウォールなどのアクセス制限や、robots.txt のような機械可読な指示に従うクローラを採用し、ユーザーエージェントごとに措置を公開して、変更時には通知すること。学習したログを一定期間保持すること。
伊藤海賊版サイトへのクロール回避に取り組むこと。侵害する生成物の生成を防止する技術的措置と、電子透かしやC2PAのような出所・来歴を証明する技術的措置を、可能な限り講ずること。侵害のおそれがある生成物は利用すべきでない旨を利用者に周知すること。そして、権利者の救済のための窓口を整備し、申出の要件を明確にして、対応記録を保存すること。
聞き手ログの保持というのは、どの程度のものでしょうか。
伊藤7ページの脚注で、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版の19ページが引かれています。検証可能性の確保として、データ量やデータ内容に照らして合理的な範囲でログを記録・保存する、という考え方です。記録方法、頻度、保存期間は、事故の原因究明や再発防止、立証上の重要性を踏まえて検討する、とされています。
原則2と原則3:開示の求めへの備え
聞き手原則2と3は、外から問い合わせが来る話ですね。
伊藤そうです。性格が違うので分けて説明します。9ページの原則2は、権利者側からの求めです。映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメーション、コンピュータゲームといった作品について、訴訟やADRなどの法的手続を現に行っているか、準備している人。あるいはその代理人の弁護士からの求めが対象です。
伊藤聞けるのは、学習や検証に用いたデータに、照会するURLなどの情報が含まれているかどうか。それと、求められた側が提供者で答えられない場合は、搭載モデルを開発した者の名称です。
聞き手求める側にも条件があるのですね。
伊藤9ページに三つあります。開示要求者に当たる理由を示すこと。回答の利用目的を明示し、他の目的に使わないと誓約すること。照会するURL等を示して、求める理由となる事由を特定すること。
伊藤典型例は10ページです。自分の作品をサイトに載せている人が、同一または類似の生成物を見つけて、作品ページのURLを示し、そのドメインがクロール対象に含まれているかを尋ねる場面です。
聞き手12ページの原則3は、誰からの求めですか。
伊藤生成AIを使って自分で生成物を作った人からの求めです。こちらは、自分の生成物と、それを生成するときに使ったプロンプトを示すことが要件になっています。12ページの開示の求めが満たすべき事項の①です。
伊藤利用目的にも制限があって、12ページの②で、訴訟提起や調停申立て、ADRの申立てに用いる目的では使わない、と誓約することが求められています。原則2とはここが違います。
聞き手事業者側の備えとしては。
伊藤10ページと13ページの細則が実務的です。濫用的な要求を防ぐため、一定の手数料や回数制限を設けることが考えられる。ただし、求めを萎縮させたり諦めさせたりする設定にはしない。そして、対応方針を自ら明確にして公表しておくことが望ましい、とあります。問い合わせが来てから考えるのではなく、窓口と手続を先に決めておく。これが一番の備えです。
伊藤ここで注意してほしいのは、11ページと14ページに同じ趣旨で書かれている点です。体制が構築できていない、と述べるだけではエクスプレインとして不十分とされていて、事業規模を勘案しつつ、体制構築が完了する時期を説明することが求められています。
エクスプレインの作法と、まとめ
聞き手実施しない場合の説明の仕方にも、注意点がありますね。
伊藤14ページです。利用規約で原則の適用を撤廃したり制限したりする、いわゆるオーバーライド条項がある場合、その条項があると示すだけではエクスプレインとして不十分で、なぜその規定を置いているのかを説明することを要する、とされています。
伊藤それと、受入れ表明をしていても、利用規約で開示対象を限定するなどして、実質的に実施していないと評価できる場合には、別途エクスプレインが要る、とも書かれています。表明したあとの運用まで見られる、ということです。
伊藤まとめます。一つ目、原則1の開示項目を棚卸ししてください。モデル、学習データ、クローラ、トレーサビリティ、そして7ページの知財保護の9項目です。robots.txt の扱いとログの保持は、技術側と一緒に確認する必要があります。
伊藤二つ目、原則2と原則3の窓口と対応方針を先に決めてください。来てから考えると、合理的期間内の回答が難しくなります。体制がないと述べるだけでは、エクスプレインとして不十分とされています。
伊藤三つ目、利用規約との関係を確認してください。オーバーライド条項があるなら、その理由まで説明できるようにしておく必要があります。
聞き手資料そのものは、どこで読めますか。
伊藤内閣官房のサイトにPDFが公開されています。開示項目を具体的に検討するなら、6ページから7ページを手元に置いて、自社のサービスと突き合わせるのが早いです。このページの参考資料にリンクを置いています。
Sources
参考にした一次資料
- 内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(プリンシプル・コード7ページ脚注で参照)
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」
本解説は、上記の公表資料をもとに弁護士 伊藤 憲武が論点を整理し、実務上の見方を加えたものです。資料の最新版・改訂状況は、必ずリンク先でご確認ください。
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