NI伊藤憲武
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2026.09.17 生成AI / AI法 / 個人情報 / 著作権 / 利用規約

生成AIサービスを立ち上げる際の法務チェックリスト

この記事の要点

生成AIサービスでは、利用規約だけでなく、外部AI事業者との契約、個人情報のデータフロー、入力・RAG・生成物の著作権、ハルシネーション、個別業法、セキュリティ、AIガバナンスまで横断的に確認する必要があります。重要なのは、サービス完成後に法務を当てはめるのではなく、設計段階から法的リスクをプロダクト仕様に反映することです。

生成AIを組み込んだサービスを立ち上げる際には、従来のWebサービスと同様に利用規約や個人情報保護への対応が必要となるほか、AI特有の問題として、入力データの取扱い、AI生成物の著作権、ハルシネーション、AIモデル提供事業者との契約、AIガバナンスなどを検討する必要があります。

特に、OpenAI、Google、AnthropicなどのAIをAPI経由で利用する場合には、「自社とユーザーとの関係」だけでなく、「自社とAI提供事業者との関係」まで含めてサービス全体のデータフローと責任分担を整理することが重要です。

また、令和7年(2025年)9月1日には「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(いわゆるAI法)が全面施行され、令和8年(2026年)3月には「AI事業者ガイドライン」も第1.2版に改訂されています。生成AIサービスの立上げに際しては、これらの新しいルールも踏まえて設計する必要があります。

1 まず確認したい法務チェックリスト

生成AIサービスを立ち上げる際には、少なくとも次の事項を確認しておくことをおすすめします。

項目主な確認事項
① サービスの法的位置付けAI開発者・AI提供者・AI利用者のどの立場に当たるか
② AI提供事業者との契約入力データの利用、学習利用、保存、生成物の権利、責任制限
③ 個人情報プロンプトに個人情報が含まれるか、海外移転があるか
④ 著作権・知的財産入力データ、RAG用データ、生成物について権利侵害がないか
⑤ 利用規約AI特有のリスク・責任分担を規約に反映しているか
⑥ ハルシネーション誤情報によって損害が生じるリスクをどう管理するか
⑦ 第三者の権利名誉・プライバシー・肖像・商標等を侵害しないか
⑧ 個別業法医療、金融、法律、人材などの規制分野に該当しないか
⑨ 消費者法・広告規制課金、サブスク、性能表示等が適切か
⑩ セキュリティプロンプトインジェクション、情報漏えい等への対策があるか
⑪ AIガバナンスリスク評価、ログ、監視、インシデント対応の体制があるか

以下、それぞれ説明します。

2 自社が「AI開発者・AI提供者・AI利用者」のどこに位置するかを整理する

最初に行うべきなのは、サービスの技術構成を図にすることです。

典型的な構成例

ユーザー → 自社サービス → 外部LLMのAPI → 自社サービス → ユーザー

このような構造であれば、自社では基盤モデルそのものを開発していなくても、生成AIを組み込んだサービスをユーザーに提供する「AI提供者」としての側面を持つことがあります。

AI事業者ガイドライン第1.2版では、AIに関係する主体をAI開発者、AI提供者、AI利用者に分け、それぞれについて求められる取組みを整理しています。また、共通の指針として、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティなどが掲げられています。

したがって、まずは次の点を整理する必要があります。

  • 誰が基盤モデルを提供するのか
  • 誰がプロンプトを作成するのか
  • 誰がユーザーからデータを取得するのか
  • AIの出力をそのまま表示するのか、自社で加工・検証するのか
  • RAGやファインチューニングを行うのか
  • 最終的な判断をAIが行うのか、人が確認するのか

なお、AI法はAIサービスについて一律の許可・登録制度を設けるものではありませんが、AIを活用した製品・サービスを開発・提供する事業者等を「活用事業者」と位置付け、国・地方公共団体の施策への協力等をその責務として定めています。

3 外部のAI提供事業者との契約・利用規約を確認する

外部の生成AIをAPI経由で利用する場合には、そのAI提供事業者との契約内容を必ず確認する必要があります。特に重要なのは次の事項です。

  • プロンプトやアップロードデータをAI提供事業者が学習に利用するか
  • データがどの程度の期間保存されるか
  • データが保存・処理される国はどこか
  • 再委託先・サブプロセッサーが存在するか
  • 入力データについて自社がどのような権利を保証する必要があるか
  • 生成物についてどのような権利が認められているか
  • 第三者の知的財産権を侵害した場合の責任を誰が負うか
  • AI提供事業者による補償(indemnity)があるか
  • 利用禁止用途に該当しないか
  • APIやモデルが突然変更・停止された場合の扱い
  • 利用規約が一方的に変更される可能性

経済産業省が令和7年(2025年)2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」でも、インプット・アウトプットの利用、第三者提供、権利帰属、個人情報、セキュリティ、ログ保存、規約改定などが主要な検討事項として整理されています。

実務上のポイント

生成AIを使っているからといって、自社とユーザーとの間の利用規約だけを整備すればよいわけではありません。上流にあるAI提供事業者の契約条件と、自社がユーザーに約束している内容が矛盾していないかを確認することが重要です。

4 個人情報がAI提供事業者に送信されるかを確認する

生成AIサービスでは、ユーザーが自由入力欄に氏名、勤務先、病歴、相談内容その他の個人情報を入力することがあります。そのため、「ユーザーから取得した情報が、どこに送られ、誰が、何の目的で利用するのか」というデータフローを確認する必要があります。

個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を入力する場合、利用目的の範囲内であることを確認する必要があるとしています。また、本人の同意なく個人データを入力し、その情報が回答生成以外の目的、例えばAIモデルの学習等に利用される場合には、個人情報保護法違反となる可能性があるとして注意を促しています。

特に海外のAI提供事業者を利用する場合には、次の点も検討する必要があります。

なお、外国事業者への提供については、「委託」であれば当然に外国第三者提供規制の対象外になるわけではありません。個人情報保護委員会のQ&Aでも、外国にある第三者への委託について、一定の場合を除き個人情報保護法28条1項に基づく対応が必要になることが示されています。

Privacy by Design

サービス設計の段階で、不要な個人情報をAI側へ送信しない、マスキングする、学習利用されないAPIを選択するといった対応を取り入れることも重要です。

5 入力データ・RAG・生成物の著作権を整理する

生成AIと著作権については、大きく「① AIに入力・学習させる段階」と「② AIが生成したコンテンツを利用する段階」を分けて考える必要があります。

入力・学習段階

第三者の文章、画像、データベースなどをAIに入力したり、RAG用データとして利用したりする場合には、著作権法上利用可能なのかを確認する必要があります。

著作権法30条の4は情報解析等について一定の権利制限を設けていますが、生成AIに関する著作物の利用がすべて同条によって自由になるわけではありません。利用目的や態様によって個別に判断する必要があります。

文化庁は、令和6年(2024年)3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、同年7月には「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表しています。特に、自社独自のRAGを構築する場合には、単に「生成AIだから利用できる」と考えるのではなく、データの取得元や利用目的を確認することが重要です。

生成物の利用段階

AI生成物が既存の著作物と類似している場合には、著作権侵害が問題となることがあります。また、AIが生成したコンテンツについて、常に著作権が発生するわけでもありません。人間がどの程度創作的に関与しているかなどによって判断されるためです。

そのため、利用規約で次の事項を整理しておく必要があります。

  • ユーザーが入力データについて必要な権利を有していること
  • 第三者の権利を侵害する入力を禁止すること
  • 生成物について第三者の権利を侵害しないことを保証しないこと
  • 生成物に権利が発生する場合の帰属
  • 違法・侵害コンテンツへの削除対応

6 利用規約にAI特有のリスクを反映する

生成AIサービスの利用規約では、通常のWebサービスの規定に加えて、AI特有の事項を定める必要があります。例えば、次のような事項です。

  • AIによる生成物には誤りが含まれる可能性があること
  • 生成物の正確性、完全性、最新性等を保証しないこと
  • 医療・法律・投資等の重要な判断にそのまま依拠しないこと
  • 禁止されるプロンプト・利用方法
  • 入力データについてユーザーが必要な権利を有すること
  • 入力情報をサービス提供のために処理できること
  • 生成物の権利関係
  • 第三者の権利を侵害する生成物への対応
  • AIモデル・仕様変更に伴い出力内容が変わる可能性
  • サービス停止・API停止の場合の対応
  • 損害賠償責任・責任制限

注意

「AIなので一切責任を負いません」と規約に書けば問題が解決するわけではありません。利用規約による責任分担と、実際のサービス設計によるリスク低減は、両方を行う必要があります。なお、規約を定型約款として契約内容に組み入れるための要件と、免責条項の限界については、別の記事で整理しています。

経済産業省は令和8年(2026年)4月、「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」を公表し、AIサービスに損害が生じた場合の不法行為責任などについて、現行法上の考え方を整理しています。AIの利用方法、人間による監督、予見可能なリスクへの対応等によって、事業者に求められる注意義務は変わり得ます。

7 ハルシネーションによる損害を想定する

生成AIには、事実と異なる情報をもっともらしく生成する、いわゆるハルシネーションが生じることがあります。単なる雑談サービスであれば影響が限定的でも、医療、法律、金融・投資、与信、採用、教育、業務上の重要な意思決定などに使われるサービスでは、誤回答の影響が大きくなります。

そのため、サービスのリスクに応じて、次のような対応を検討する必要があります。

  • RAGによって参照情報を限定する
  • 出典を表示する
  • 回答の確度を表示する
  • 一定の回答を生成しないガードレールを設ける
  • 人間によるレビューを挟む
  • 重要な判断についてAIだけで完結させない
  • ログを保存する
  • インシデント発生時に検証可能な状態にする

AI事業者ガイドラインでも、安全性、透明性、アカウンタビリティ等が重要な共通指針として位置付けられています。

8 名誉・プライバシー・肖像等の第三者の権利を確認する

生成AIが問題を起こすのは著作権だけではありません。例えば、「○○社の社長は犯罪をしていますか」という質問に対して、AIが存在しない犯罪歴を生成した場合には、名誉毀損等の問題が生じ得ます。

画像生成や音声生成の場合には、肖像権、パブリシティ権、プライバシー、商標権、不正競争防止法、名誉・信用なども問題になります。特に実在人物の画像・音声を生成できるサービスでは、ディープフェイクやなりすましへの対策をあらかじめ設計しておくことが重要です。

9 サービス内容によって個別業法を確認する

「AIサービス」という業種が一つ存在するわけではありません。AIが提供する機能によって、適用される法律は大きく変わります。例えば、次の分野ではそれぞれの業法や専門職規制を確認する必要があります。

  • 医療・ヘルスケア
  • 金融・投資
  • 保険
  • 与信審査
  • 人材紹介・採用
  • 法律相談
  • 不動産
  • 教育
  • 子ども向けサービス

設計段階で確認する理由

既存のサービスをAIに置き換えたからといって、既存の業規制がなくなるわけではありません。「人が行えば許認可・資格が必要な行為をAIに行わせた場合にどうなるのか」という観点から、ビジネスモデルを確認する必要があります。

生成AIサービスでは、開発がある程度進んでからこの問題が発覚すると、大幅なサービス設計変更が必要になることがあります。そのため、個別業法・許認可の確認は、できるだけサービス設計の初期段階で行うことが重要です。

10 広告表示・課金方法を確認する

生成AIは新しい技術であるため、マーケティング上も機能を強く訴求しがちです。しかし、「100%正確」「専門家と同等」「絶対に間違えない」「完全自動」「業界最高精度」などの表示を行うのであれば、その裏付けを確認する必要があります。

サービスの品質について実際より著しく優良であると一般消費者に認識させる表示は、景品表示法上の優良誤認表示に該当する可能性があります。故意でなく誤って表示した場合でも規制対象となり得ます。

また、一般消費者向けに有料プランやサブスクリプションをオンライン販売する場合には、特定商取引法上の通信販売規制も確認する必要があります。インターネット通販では、販売価格・対価、支払時期、解約条件等の表示や、申込時の最終確認画面について一定の規制があります。

11 セキュリティとログ管理を設計する

生成AIでは、通常のWebサービスとは異なるセキュリティリスクがあります。例えば、次のようなリスクです。

  • プロンプトインジェクション
  • システムプロンプトの漏えい
  • RAGに格納された秘密情報の漏えい
  • 他ユーザーのデータの出力
  • APIキーの漏えい
  • 外部ツールを利用するAIエージェントによる意図しない操作

そのため、「誰が、どのデータに、どのAIを通じてアクセスできるのか」を設計段階から整理する必要があります。

また、問題が発生したときに原因を検証できるよう、次の情報について必要な範囲でログを残すことも検討すべきです。

  • プロンプト
  • AIの回答
  • 使用したモデル
  • モデルのバージョン
  • RAGで参照した情報
  • AIエージェントが実行した操作

経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」でも、セキュリティ水準、監査、ログ保存等が独立した検討事項として取り上げられています。

12 AIガバナンスを「サービス公開後」の問題にしない

生成AIサービスについては、一度法務チェックを行えば終わりというわけではありません。AIモデルそのものが更新されるほか、APIの利用規約が変わる、学習・データ保存方針が変わる、新しい機能が追加される、新しいAI規制・ガイドラインが公表される、新しいリスクや攻撃方法が発見される、といった変化が継続的に発生します。

継続的な管理サイクル

設計 → リスク評価 → リリース → モニタリング → インシデント対応 → 改善

そのため、サービスの規模・リスクに応じて、このような仕組みを用意しておくことが重要です。令和8年(2026年)3月31日に公表されたAI事業者ガイドライン第1.2版でも、AIガバナンスの構築・モニタリングについて具体的な資料やチェックリストが用意されています。

まとめ

生成AIサービスを立ち上げる際には、「AI法に違反していないか」だけを確認すればよいわけではありません。実際には、AI法・AIガバナンス、個人情報保護法、著作権・知的財産、契約、民事責任、消費者法、サービスごとの個別業法を横断的に確認する必要があります。

中でも重要なのは、サービスの完成後に利用規約を作ることではなく、サービス設計の段階で法的リスクを確認し、必要であればプロダクト自体の仕様を変更することです。

例えば、「ユーザーの個人情報を外部AIに送らない」「AIの回答だけで重要な判断を完結させない」「RAGに利用できるデータだけを入れる」といった対応は、利用規約だけでは実現できません。

結論

生成AIサービスの法務では、法律をサービスに後から当てはめるだけではなく、どのような仕組みにすれば事業目的を実現しながら法的リスクを抑えられるかという、サービス設計そのものの検討が重要になります。

主な参考資料

  1. 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」
  2. e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」
  3. 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」
  4. 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」
  5. 経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」
  6. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
  7. 個人情報保護委員会「個人情報保護法に関するQ&A」
  8. 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」
  9. 消費者庁「優良誤認とは」
  10. 消費者庁「特定商取引法ガイド」

各省庁のガイドライン・指針・告示は、業種と業務内容の二軸で絞り込める索引(収録343件)にまとめています。


※本稿は2026年9月時点の一般的な法務上の論点を整理したものであり、個別案件についての法的助言ではありません。具体的なサービスについては、事業内容・技術構成・契約関係等に応じた個別検討が必要です。生成AIサービスの設計段階からのご相談は、お問い合わせフォームから承ります。

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