共同創業者との決裂と、株式の買取交渉
二人で会社を始めて、関係が壊れた。一方が会社を離れたのに、株式はそのまま残っている。あるいは、経営から事実上外された。
このとき最初に出てくる質問は、たいてい「相手を会社から追い出せますか」です。しかし、先に確かめるべきことがあります。それぞれが、どの立場で、どの権利を持っているのかです。
この記事の要点
- 創業者は、株主・取締役・従業員・貸主・知的財産の保有者という複数の立場を同時に持っています。まず切り分けます。
- 取締役を解任しても、株式は消えません。株式を取り戻すには、契約上の根拠か、合意が必要です。
- 非上場株式の買取価格には唯一の正解がありません。評価の方法と交渉の材料を押さえることが実際の勝負になります。
1 一つの対立に、複数の法律関係がある
創業者は、同時に次の立場を持っていることがあります。
- 株主(議決権と経済的利益)
- 取締役(経営の権限と、会社に対する義務)
- 従業員(給与、社会保険)
- 会社への貸主(創業者貸付)
- 知的財産の保有者(会社設立前に作ったコード、デザイン、商標)
取締役を解任しても株式は残ります。雇用関係を終わらせても株主としての権利は残ります。創業者貸付を返済しても、株式の問題は解決しません。
どの関係をどう終わらせるのかを一つずつ決める。これが、交渉の設計です。逆に、ここを混ぜたまま話を進めると、合意ができたように見えて後から蒸し返されます。
2 株式を取り戻せるかどうか
ここが最大の論点です。日本の会社法には、株主が気に入らないからといって会社や他の株主が株式を取り上げる一般的な制度はありません。株式を動かすには、原則として次のいずれかが必要です。
- 創業株主間契約など、契約上の根拠(離脱時の譲渡義務、ベスティング)
- 当事者間の合意(買取価格と支払条件を決める)
- 会社法上の特別な手続(譲渡制限株式の譲渡承認、相続人等に対する売渡請求、全部取得条項付種類株式、スクイーズアウトなど。いずれも要件と手続が厳格です)
創業株主間契約があれば、離脱の時期と事由に応じて譲渡義務が定められていることがあります。契約がない場合は、交渉によって合意を作るほかありません。そのため、相手にとって合意する理由を作れるかどうかが実務上の焦点になります。
3 買取価格をどう決めるか
非上場株式には市場価格がありません。実務では、複数の評価方法を突き合わせます。
| 方法 | 考え方 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 直近ラウンド価格 | 直近の資金調達における1株当たりの価格 | 外部調達があり、条件が近い場合 |
| 純資産方式 | 貸借対照表上の純資産を基礎にする | 資産保有型、調達がない場合 |
| 収益方式(DCF等) | 将来のキャッシュフローから算定する | 事業の継続性が見込める場合 |
| 類似会社比較 | 上場している同業他社の指標と比較する | 業種の比較対象がある場合 |
実際の交渉では、評価額そのものよりも、支払原資があるか(会社のキャッシュ、新たな調達、分割払い)、買い手が誰か(会社による自己株式取得か、残る創業者個人か、投資家か)が結論を左右します。会社が自己株式として取得する場合には、会社法上の財源規制と手続が別途必要です。
4 やってはいけないこと
対立の最中に、次のような行動に出てしまう例があります。いずれも、後の交渉や訴訟で不利に働きます。
- 会社の口座から独断で資金を移す
- 共同創業者のアカウントを一方的に停止する
- サーバーやリポジトリのデータを削除する、持ち出す
- 顧客に対して、相手方を一方的に非難する連絡をする
- 取締役会や株主総会の手続を省略して登記を変更する
会社の資金、ソースコード、ドメイン、顧客リストは、創業者個人のものではなく会社のものであることが通常です。株主間の対立は、会社財産を自由に扱ってよい理由にはなりません。取締役としての義務違反を問われる可能性もあります。
5 解決の型
実務でよく使われるのは、次の形です。
買取:一方が他方の株式を買い取る。価格、支払時期、分割の場合の担保、譲渡承認の手続までを決めます。
役割の再編:双方が株主として残りつつ、経営の権限を整理する。取締役の構成、事前承諾事項、デッドロックの処理を定め直します。
包括的な和解:株式の譲渡、取締役の辞任、創業者貸付の返済、知的財産の移転、会社資産の返還、秘密保持、競業の扱い、顧客への説明、相互の清算条項を一つの合意書にまとめます。問題ごとにばらばらに合意するより、まとめて処理するほうが実効性があります。
将来の資金調達やM&Aを考えるなら、登記、株主名簿、議事録を整合させておくことが欠かせません。デューデリジェンスで必ず見られる部分です。
よくある質問
相手が経営に関与していないのに、株式を持ち続けています。配当もしていません。
株式を保有していること自体は違法ではありません。買取りを求めるには、契約上の根拠か合意が必要です。一方で、相手方にとっても、換価できない株式を持ち続ける意味は小さい場合があります。そこが交渉の出発点になります。
共同創業者が、会社のコードを持ち出して同じ事業を始めました。
知的財産の帰属と、競業避止・秘密保持の定めを確認します。会社に権利が帰属していれば、差止めや損害賠償を検討する場面です。共同開発と知的財産でも触れていますが、誰が作ったかと誰が権利を持つかは別の問題です。
投資家が入っています。投資家との関係はどうなりますか。
株主間契約に、創業者の離脱に関する定め(ベスティング、事前承諾事項、優先買取権)が置かれていることがあります。投資家は、会社の事業が止まることを望まないのが通常ですので、交渉の調整役になり得ます。
相手方の代理人から連絡が来ました。
回答の期限が切られていることが多いため、早めにご相談ください。こちらから受任通知を出せば、以後は弁護士間のやり取りになります。